数日振りに直接現場まで事件を出向いて解決してきた新一は、高校の出で立ちのままでは少し遅い時間にようやく我が家の敷居を跨いだ。
玄関を開けてすぐに聞こえて来る労いを込めた迎えの愛しい声。そして食欲をそそる芳しい香り。ダイニングキッチンに顔を出すと愛しい妻の手料理がズラリとテーブルに所狭しと並んでいた。
「随分豪勢だな……?」
特に記念日などに思い当たらず、声に怪訝な思いが載ったからか、蘭が、ふふふと、嬉しそうに笑う。
「今日はいい夫婦の日なんだよ。」
そう言って悪戯が上手く行ったと笑みを深めた。
それから、新一のネクタイに手を伸ばすとゆっくりとそれを緩める。
「蘭?」
シャツのボタンもゆるめられ、喉元に細い指が掠めた。
既に結婚して10年にもなるのに恥ずかしがり屋な愛妻にしては珍しく大胆にも思える行動に新一は目を瞬く。
蘭の指がするりと取りだしたのは、普段シャツの下に隠されている二人の愛の誓いの証。
結婚指輪をチェーンから外すと、蘭の行動の意図について行ききれず固まっている新一の左手をとって、その薬指に通した。
それから自分の左手を掲げ薬指に嵌る同じデザインの指輪を煌めかせると
「たまには夫婦っぽいことしないとね」
と、上機嫌に笑うのだ。
いつまでたっても少女のような蘭に破顔すると、まだ掲げられたままの左手をとって引き寄せ腕の中に閉じ込めた。
何回惚れ直させれば気が済むんだろうか、この愛しい人は。
想いを込めて頬をすり寄せると、腕の中で蘭が擽ったそうに喉を鳴らしながら身じろぐ。
「オレとしては、最近結構夫婦っぽいことしてるつもりだったんだけどなー……足りなかったか……。」
蘭をきゅうきゅう抱き締めながらポツリとつぶやくと、
「えー? どんな?」
クスクス笑ながら問い返される。
「んー」
驚かされた仕返しにと、ニヤリ笑って蘭の耳元に囁いた。
「子作り、とか?」
「!!!」
予想通り、いつまでたっても純粋な彼女は一瞬で真っ赤に頬を染めあげる。
「……バカ」
小さな恨み言は、新一のジャケットの胸元に吸い込まれて消えた。